Vol.14 70対68 (平成22年07月10日掲載)

70対68。
なんのカウントと思われますか?

このまるでバスケットボールの点数のようなカウントは、テニスの2010年ウィンブルドン選手権1回戦、イスナー(米) vs. マユ(仏)の試合の最終セットのゲームカウントです(注1)。11時間5分にわたった試合は日没中断により3日間におよび、合計ゲーム数183を記録してテニス史上最も長い試合となりました。これは長めの試合でも4試合程度入ってしまう長さで、彼らにしてみれば1回戦ですでに4回戦分戦っているようなものです。しかも連続で。ポイントで言えば478(イスナー) 対502(マユ)となり合計で1000ポイント近くも争っていることになります(注2)。サッカーだとPK100本打ってようやく試合が決まるような感じでしょうか。その体力と気力には圧倒されますが、これだけの長時間お互いの集中力が途切れなかったことは驚嘆すべきことで、奇跡的とも言えることだと思います。

テニスもスポーツですからもちろん身体能力が一番重要な要素ですが、道具を使うために繊細さも必要とされます。超一流のプロであっても、100%の自信を持って打っても狙ったところに100%入ることはないと思いますが、「だめかな〜」と思って打つと面白いぐらい確実に失敗します。そして個人技であるためにメンタルの要素はそのまま点数にあらわれるので、拮抗してみえる試合でも、動き始めると意外にあっさりと終わってしまうことが多いのです。ですから2人が立つのもやっとの状態になっても、サービスを確実に決め、相手のボールに食らいつき、自分が必ず勝つという思いを抱き続けてショットを打ち続ける姿は多くの感動を呼びました。二度の日没中断を挟んでも、翌朝には緊張感を取り戻して試合に臨むことが大変難しいことは、過去の多くの中断試合で再開後に流れが変わってしまったことからも明らかですが、今回の試合では2人ともが高いモチベーションと集中力を維持し続けました。どちらか片方だけでは達成されることのないこの試合の記録は、今後容易に塗り替えられることはないでしょう。このような伝説の試合の誕生をリアルタイムで感じることができてとても興奮しました。

荒 河 岳

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(注1)
通常6ゲームを先取で1セットを獲得しますが、5‐5になると2ゲーム連続で獲得するまでやり続けます。近年では最終セット以外は6‐6になるとタイブレークという方式で短く決着をつける方法が採用されていますが、最終セットだけは2ゲーム連取しないと永遠に続きます。

(注2)
ちなみに勝ったのはイスナーで、勝者の方の獲得ポイントが低いのは4ポイント先取で1ゲーム獲得というルールによるため。自分が1ゲーム獲得するときにデュースにもつれ込むなど競り合いになって、相手が1ゲーム獲得するときにはポイントをあまり獲得できないとこのような結果になります。どんなに点数を重ねても取りどころを落とすと負けてしまうのが、テニスの面白いところです。